真相

時計の針が午後10時をさしていた。

まだ夏の暑さは衰えない9月の初め。

事務所の中はクーラーが効いているのでそれほどでもないが今,窓を開ければとんでもない風が入ってくるだろう。

・・・・そんな状況にも関わらず,隣のクーラーの入っていない部屋に捜査資料を取りにいったまま真宵ちゃんは帰ってこない。

さっきまで「暑いから行きたくなーい!」と渋っていた真宵ちゃんが,やっと行ったと思ったら今度は帰ってこない。

最初のうちは何かブツブツ文句を言っていたのが今は物音すら聞こえない。

「・・・・探してるって感じじゃないよな・・・・。」

それとも寝ちゃったか?・・・いや,あんな暑いところで寝ないか。

少し心配になって部屋を覗いてみることにした。

「・・・真宵ちゃーん・・・?」

「・・・・・・・。」

彼女は窓の外を眺めていた。僕には気づいていないようだ。

・・・・そんなに上の空なのか・・・。

フローリングの上には捜査資料が置いてあった。

・・・・が。僕が頼んでいたものではない。

それは・・・千尋さんのあの事件の捜査資料だった。

「・・・・・・真宵ちゃん?」

「・・・へっ?あ,ごめん!」

やっと僕に気づく。その顔には少し涙が流れていた。

「・・・こんな暑いところでどうしたの?ほら,おいでよ。」

「あ,うん・・・・。」

・・・どうも最近おかしいと思った。

僕も忘れかけていたが・・・・・・・。

 

明日は千尋さんが亡くなったから丁度,10年なんだ。

 

真相

 

「あ,でも捜査資料探すから,先行ってていいよ。」

「いいよ,僕も探すから。」

「ごめんねー。ちょっと考え事しててさ。」

「そっか・・・・。」

彼女は先日,27歳の誕生日を迎えた。

倉院の里での誕生日パーティは本当に豪華だった。

彼女は現在,家元として日々頑張っているのだが,最近受験者が減ってきたらしく

他の修道者の者達で間に合うらしいので,よく手伝いに来てくれる。

今回はお泊りっていうか4日間ほどこっちに泊まって帰るらしい。

彼女が27歳になって数日たった時,真宵ちゃんは熱が出たそうだ。

春美ちゃんが電話をしてくれて,そこで初めて聞いた。

・・・・真宵ちゃんがいくらやっても,千尋さんを霊媒できない,と。

彼女はそれにショックを受け熱を出したそうだ。

 春美ちゃんも高校生になり,詳しい霊媒事情が分かってきたみたいで。

家元の霊力は絶対だ。だから春美ちゃんにも呼べないのだそうだ。

プルルルル・・・ プルルルル・・・

「電話?こんな時間に・・・・。ちょっと出てくるね。」

「うん,いってらっしゃーい。」

いまだにコールはおさまらない。

この場合,検事組の2人は短気なので違うだろう。

・・・とすると・・・。

「もしもしっ?」

『あ,夜分遅くにすいません!なるほど君ですか?』

「あ,春美ちゃん?こんばんは。」

可愛らしい聞き覚えのある声が聞こえた。

相変わらず義理堅い子だなぁ・・・・・。

『あの・・・真宵様は大丈夫ですか?』

「・・・大丈夫って・・・?」

『いえ,実は真宵様,昨日なるほど君の事務所に行かれる前,自室で泣いていらっしゃったみたいで・・。』

「え・・・・っ?」

『真宵様,きっとなるほど君の前だと強がってしまうと思うんです。だから心配で・・・』

「大丈夫っとは言いにくいかな?今も少しね。」

高校生になった春美ちゃんは学校でいろいろ学び,前のように僕と真宵ちゃんの関係を

誤解するようなことはなくなったが,その頃には既に僕は関係を意識しすぎていて。

『なるほど君?大丈夫ですか?』

「あ,うん・・・。真宵ちゃん,何かあったの?」

『あ,それがですね・・・・この前も話したように真宵様,千尋様を霊媒できなくなってしまって・・・・。』

「あー・・・うん。でも,家元の霊力は絶対なんじゃないの?」

『そうなんです。でも・・・何故か真宵様も出来なければ私にも出来ません・・・。考えられるとすれば・・・』

「・・・・?」

『真宵様が27歳・・・・千尋様の年齢を超えられたことです・・・。』

「・・・・!」

『真宵様のこと,よろしくお願いします!では,失礼します!』

「あ,ちょっと春美ちゃん!?」

ツー ツー ツー

「・・・・・・切れた。」

どうやら春美ちゃんは本気で真宵ちゃんを心配しているようだ。

実際,真宵ちゃんはさっきも泣いていたようだし・・・。

「なるほど君,誰から?」

「えっ・・・あ,あぁ。・・・・御剣からだよ。書類を送るって。」

「そっか。」

きっと彼女に春美ちゃんが心配してたなんて言ったら彼女はもっと落ち込むだろう。

真宵ちゃんは人に心配されたり同情されるのが好きではないから。

「なるほど君!はい,捜査資料。」

「あ,ありがとう・・・。」

確かに彼女は強い子だ。

だからこそ心配になる。

彼女は僕や春美ちゃんにすら涙を見せることはなかった。

あの葉桜院の事件でも彼女は周りの皆に心配をかけないように涙することは無かった。

母親を殺され,自分自身も殺されかけ精神的にも追い詰められていた一番の被害者である彼女が。

「真宵ちゃん,あのさ・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

「真宵ちゃん?」

「あっ!えっ,何・・・?ごめんね。」

「・・・・・・どうしたの?」

「あ,ちょっと考え事しててさ・・・・。」

浮かない顔をしながら彼女は僕の問いに返答する。

「千尋さんのこと?」

「・・・えっ・・・・・。」

「真宵ちゃん,霊媒できないんだろ?千尋さんのこと。」

「・・・・・・。」

「聞いたよ,春美ちゃんから。27歳になった途端,出来なくなったって。」

「・・・・・ハミちゃん,心配してくれてたんだね。あの子鋭いから。」

「うん・・・。」

「なるほど君もこういうときは鋭いからやっぱ分かっちゃうんだ。」

「こういう時はってなんだよ・・・。」

「たまに・・・・思うんだ。」

「・・・・・?」

「あの時,あの時間に証拠品を持っていったのは私が用事があったからなの。

お姉ちゃんは8時くらいを希望していたんだけど私が用事があったから・・・・・。」

「・・・・・・・。」

「もし,私の用事が無かったら8時から受け渡していて・・・・

お姉ちゃんは殺されなかったんだよね。・・・私が・・・。」

「真宵ちゃん・・・・。」

「私のせいでお姉ちゃんが殺されちゃったんだって思うと・・・・もうどうしようもなくて・・・。」

「・・・・・・。」

「お姉ちゃん,死んでなかったら神乃木さんと結婚して,子供生まれてたのかな?

神乃木さんは検事を続けてお姉ちゃんも子育てが一段落したら弁護士を続けて,

2人が対立したりして。その時は私となるほど君も傍聴席で見てたり。

そんな未来があったのかなって思うと・・・・申し訳なくて・・・・・。

お姉ちゃんとその周りの人達の幸せな未来や希望を私が奪っちゃったんだって。

私が沢山の人たちの未来を奪っちゃったんだって・・・・」

・・・その時,彼女は初めて涙を見せた。

窓からのぞく月の光が彼女の顔を照らし,涙がキラッと光った。

いつも気丈な彼女が涙するのを見て,僕は少し戸惑う。

「なるほど君・・・。どうすればいいの・・・・?」

「・・・・・。」

千尋さんが死んだのは真宵ちゃんのせいだった?

彼女は自分を10年間攻め続けていたのか?

実の姉を殺してしまったんだという重い罪を・・・・。

「真宵ちゃん,それは違うよ。」

「・・・え・・・?」

「千尋さんは真宵ちゃんのせいで死んだんじゃない。」

「でも・・・私の時間の都合のせいで・・・。」

「・・・・僕はね,千尋さんの死にはいろいろな意味があったと思うんだ。」

「・・・・意味?」

「うん。確かに千尋さんの死は悲しいものだったし不幸なものであったけど・・・・・・

それには大きな意味があった。

千尋さんが生きていれば確かに真宵ちゃんや僕にも楽しくて騒がしい未来が待っていたかもしれない。

でも・・・僕の場合は,真宵ちゃんや春美ちゃんとこんなに親しくなれなかったよ。

もちろん,真宵ちゃんだってそうだろ?御剣や狩魔検事と親しくなることなんてなかった。」

「・・・・・。」

「千尋さんが生きていたら・・・・なんて,もう過去のことなんだ。

今更変えられない。だから真宵ちゃんは千尋さんの分まで,今を楽しまなきゃ。」

「・・・なるほど君・・。」

「辛いのは分かってる。でも・・・・僕は真宵ちゃんに会えてよかったと思う。」

「・・・・えっ?」

「過去を悔やむなんて真宵ちゃんらしくないよ。ほら,涙ふいて。」

机の上にあったハンカチを真宵ちゃんに手渡し,彼女が涙を拭う。

「なるほど君・・・・・。10年間,ずっと辛かった・・・・。

お姉ちゃんが死んじゃったのは私のせいだって・・・。

でも・・・私,前を向いて,笑って生きていっていいのかな・・・?」

「・・・もちろん。千尋さんだって真宵ちゃんが心から笑えてないと心配で成仏できないよ。」

「・・・そうだよね・・・。」

「千尋さんの最後の願いだよ。真宵ちゃんに,大切な妹に笑って生きて欲しいって。」

「・・・うん。分かった!私,もう泣かないから!さっ,仕事やろっ!」

「うん。これ終わったらミソラーメンでも食べに行こうか。」

「やったー!さっ,早く終わらせよ!」

 

 

彼女は強い子だなぁと改めて思った。

彼女の笑顔一つで場の雰囲気は変わり,皆が笑える。

僕も,きっと彼女のそんなところに惹かれたんだなって思うし。

でも今はまだ,一緒に笑いながらミソラーメンを食べる仲でも悪くないなって思う。

 

ーおまけ~後日談~-

「たっだいまー!」

「まぁ,真宵様!お帰りなさいませ!」

「ハミちゃん,久しぶりに感じるなぁ・・・。ただいま。」

「真宵様!元気におなりになったのですね!」

「へっ?何が?」

「いえ,出発される前の真宵様は元気がなかったようですから・・・。」

「あ,そう?ごめんね,心配かけて。」

「いえ!なるほど君と何かあったのですか!?やっぱり私はついていかなくて正解でしたね!」

「えっ?ハミちゃん,学校の部活があったんじゃないの?」

「いえ,お邪魔したら悪いと思ったので口実です。」

「えぇ!?ちょっ,ハミちゃん!?」

「で,なるほど君とどうなったのですか!?お元気になられて良かったです!」

「も,もう!ハミちゃん!」

 

 

分かりにくいかもしれないけど最後のなるほど君の4行がナルマヨ?

ってかナル→マヨ?

本当はここでなるほど君に告白させようと思ったんですが,

それは続編でやろうと思います!

では,ありがとうございました!

 

 

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